では、一峰氏がヒーローもの以外は描かないのかといえば、決してそうではない。1963年から約2年半に渡って講談社の「少年マガジン」に連載された「黒い秘密兵器」(原作・福本和也)は、プロ野球を舞台にした魔球マンガの先駆けとして大ヒットした。「黒い秘球」「0の秘球」「霞の秘球」「光る秘球」「まぼろしの秘球」など奇想天外な秘球の数々は、後の「巨人の星」に出てくる大リーグボールの原形といってもいい。
余談になるが、それをさらに進化させたのが同じ一峰氏の傑作「どろんこエース」である。こちらは「少年画報」に連載したもので、「黒い秘密兵器」の秘球に対して、「どろんこエース」のほうは超球と呼ばれる。「かげろうの超球」「燃える超球」「とうめい超球」などがあり、特に「原爆超球」のすさまじさは単なる魔球のレベルをはるかに超えていた。
こうしたコミカライズや野球マンガとは一線を画し、実は一峰氏にもヒーローもののオリジナルの人気作品があった。一つは光文社の「少年」で活躍した「電人アロー」、そしてもう一つが講談社の「少年マガジン」に連載された「ミサイルマンマミー」である。アローが田辺製薬の栄養ドリンク「アスパラ」のキャラクターなら、マミーは森永乳業の乳酸飲料「マミー」のタイアップ作品として知られている。
1966年の少年マガジンは、「巨人の星」「サイボーグ009」「悪魔くん」など大型連載が続々スタートしているが、その中でマミーは堂々の看板マンガ扱いであった。当時、いかに編集部がマミーに期待していたかは、朝日ソノラマから出ていたドラマソノシートに載っている少年マガジンの広告からも推察できる。 では、どうしてミサイルマンなのか。車のボンネットから斜め上方に発射されるからである。もともとマミーは気象コントロール用のロボットとして開発された。そのため武器いえる装備は何もなく、風や霧、水蒸気といった自然現象を人工的につくりだして戦うのである。
映画でも人気のアメコミヒーロー「X-MEN」のメンバーに、気象を自在にコントロールするミュータントのストームがいる。マミーはこのストームのロボット版と考えたらわかりやすい。
一峰ファンは長らく「ミサイルマンマミー」の単行本化を望んできたが、不幸なことに当時の原稿がほぼ失われていて、このままでは永遠に叶わぬ夢になることが確実だった。しかし、近年の印刷技術の発達はコンピュータによる部分修正を可能にした。
一部残っていた印刷見本に、現存する少年マガジンのコピーを加え、作者本人が若干の修正を加えることで、1966年制作のミサイルマンマミーが40年の時を超え、21世紀の現代に甦るという奇跡を成し遂げた。ここ数年の復刻ブームで数多くの作品が改めて世に出た一峰大二氏。その正真正銘、最後のヒーロ ーマンガを存分に味わっていただきたい。
掲載誌/週刊少年マガジン(講談社)
掲載年/1966年第6号から第51号まで
関連商品/森永乳業の乳酸飲料「マミー」、コダマプレスのソノシート「ミサイルマンマミー」、文具や運動靴など従来の市場価格/未単行本のため不明
一峰大二(かずみね だいじ)
1935年東京生まれ。21歳のとき『からくり屋敷』でデビューする。『七色仮面』『ナショナル・キッド』『白馬童子』『ウルトラセブン』『スペクトルマン』など、テレビヒーロー漫画ヒット多数。『黒い秘密兵器』『ウルトラマン』(秋田書店)は完全復刻された。『織田信長の経済学』(勁文社)などの作画を手がける。『ほのぼの彩ちゃん』(毎日小学生新聞)、『愛ちゃん』(農業共済新聞四コマ漫画)、南原幹雄氏作『銭五の海』挿絵(東京新聞・中日新聞夕刊連載小説)、単行本『怪盗ルパン』5巻(くもん出版)『伝人アロー』『ウルトラセブン』(朝日ソノラマ)、その他復刻版多数。最近の作品として、共同通信社イラスト担当、『電人ザボーガー』(角川書店)、月夜野町『矢瀬遺跡』(上毛新聞社刊)などがある。『スペクトルマン』(角川書店)、『ミイラマン』『ファイヤーマン』『ウルトラマンレオ』(同文社)復刻中。
ISBN4-7759-1006-X C0979
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